
「妊娠中なのに歯が痛くなってきた…」
「薬やレントゲンは赤ちゃんに影響しない?」
上記のように妊娠中に現れる歯の痛みに悩む方は少なくありません。
妊娠中はホルモンバランスの変化やつわり、食生活の乱れなどによってお口の環境が悪くなりやすく、虫歯や歯茎の腫れ、親知らずの痛みなどが起こりやすくなります。
この記事では、妊娠中に歯が痛くなる4つの原因と時期ごとの対処法、歯科治療の可否や薬の注意点、日常でできるセルフケアについてムクノキ歯科の歯科衛生士である東山が解説します。

妊娠中に歯が痛くなるのは珍しくない

妊娠中は体の変化がお口にも影響し、「歯が痛む」「歯茎が腫れる」といった症状が増えやすくなります。
ホルモンバランスの変化や免疫のゆらぎ、つわりによる口腔環境の悪化が重なるためです。
妊娠中には、以下のようなお口のトラブルが現れやすくなるでしょう。
- 虫歯が進みやすい
- 歯茎の腫れや出血(妊娠性歯肉炎)
- 親知らずの周囲の腫れ(智歯周囲炎)
- 虫歯がなくても痛むことがある(妊娠性歯痛)
- つわりや食習慣の変化に伴う知覚過敏
上記の症状は一時的なこともあれば、治療が必要になる場合もあります。
特に「妊娠性歯肉炎」は多くの妊婦さんに見られ、放置すると歯周病に進行するリスクがあるため注意が必要です。
妊娠中に歯や歯茎が痛くなる4つの原因

妊娠中は歯や歯茎に症状が現れやすく、痛みを伴うケースもあります。4つの原因について紹介します。
いくつもの要因が重なることで、歯や歯茎の痛みを感じやすくなるのです。
①ホルモンの変化
妊娠すると女性ホルモンが増え、歯茎が腫れたり出血しやすくなります。
②唾液の変化
唾液が減ったり粘ついたりして、食べかすや菌が残りやすいです。
③抵抗力の低下
体が赤ちゃんを守るために働きを調整するので、菌に対する防御力が弱まります。
④つわりの影響
吐き気や嘔吐で胃酸がお口に触れると歯が弱くなり、歯磨きもやりづらくなることで衛生状態が悪化しやすいです。
妊娠初期に歯が痛いときの対処法と受診目安

妊娠初期はつわりや体調の変化が大きく、無理をして歯医者に通うのはつらい時期です。
まずは自宅でできる工夫で痛みをやわらげ、強い症状があれば歯医者に相談しましょう。
自宅でできる応急処置4選
妊娠中にできる自宅で痛みの症状を和らげる方法は、以下の4つです。
冷やす
痛む部分の頬の外側をタオルで包んだ保冷剤などでやさしく冷やします。氷を直接歯に当てるのは避けましょう。
お口を清潔にする
柔らかめの歯ブラシやフロスで食べかすを取り除きます。しみるときはぬるま湯でうがいすると安心です。
枕を少し高くして眠る
枕を少し高くして眠ると血流が落ち着き、痛みが和らぐことがあります。
刺激を避ける
冷たい飲み物や熱い食べ物、甘いものの食べすぎや“ちょこちょこ食べ”は控えるようにしましょう。
早めに歯医者を受診したほうがいい症状
妊娠中に以下のような症状が現れた場合は、早めに歯科医師に診てもらいましょう。
- 頬が大きく腫れている、膿が出ている、熱がある
- 口が開けにくい、飲み込むと強く痛む
- 夜も眠れないほどの痛みが続いている
- 親知らずの周りが強く腫れている
- 自宅のケアをしても症状が悪化している
歯の症状があるときは、妊娠初期でも我慢せず歯医者に相談することが大切です。
妊娠中に歯が痛いときは中期が治療に適した時期

妊娠5〜7か月ごろの安定期は、体調が落ち着きやすく、歯科治療を受けやすい時期です。
つわりも落ち着き、長く椅子に座っているのも比較的楽になります。
妊娠中期に虫歯や歯茎の腫れを治療しておくと、産前産後の忙しい時期に痛みがで困ることを防げます。
産婦人科医と相談しながら、治療を検討しましょう。
妊娠中期に受けやすい治療内容
妊娠中期からは麻酔の使用も認められる傾向にあり、以下の治療を進めやすくなります。
- 虫歯の治療:削って詰める、神経の治療なども進めやすい時期です。
- 歯周病のケア:クリーニングで歯石やプラークを取り除くと、歯茎の炎症が落ち着きやすくなります。
歯科衛生士によって行われるクリーニングの「PMTC」については、以下の記事で詳しく解説しているのであわせて読んでみてください。
☞PMTCについて歯科衛生士が徹底解説丨 PMTCの効果や施術の流れを解説
妊娠中の歯科治療時に配慮したいこと
妊娠中の歯科受診では、患者様によってつらさが異なります。以下の点に気を付け、様子を見ながら受診しましょう。
- 体勢:長時間の仰向けはお腹が張りやすいので、必要に応じて休憩を入れてもらいましょう。
- つわりが残っている:においや器具で気分が悪くなることがあるため、遠慮せず歯科医や衛生士に伝えてください。
- 通院の回数:1回でまとめて治療できるように計画してもらうと来院の負担が減ります。
歯に強い痛みがなくても、妊娠中期に一度歯医者でお口のチェックを受けておくと悪化を防げます。
妊娠後期・臨月に歯が痛いときの注意点と治療の受け方

妊娠後期から臨月は、お腹が大きくなり体勢を保つだけでも負担がかかりやすい時期です。
妊娠後期でも、痛みや腫れを軽くする処置や、短時間で終わる治療は受けられます。
無理のない範囲で痛みを和らげつつ、必要な処置は計画的に受けましょう。
臨月でも早めに受診したほうがよい5つのサイン
これらは放置すると悪化しやすい症状のため、臨月でも遠慮せず連絡してください。
- 頬の大きな腫れ、膿、発熱がある
- 口が開きにくい、飲み込みで強い痛みがある
- 眠れないほどの痛みが続く
- 親知らずの周囲が強く腫れている
- 自宅ケアで改善しない、悪化している
妊娠後期の治療の受け方
妊娠後期は、短時間でできる処置を優先しましょう。
特はクリーニング、詰め物の修理、痛み止めの処置などが挙げられます。
午前中など体調が安定しやすい時間に、短時間で複数回の通院を組むと体への負担も減らせます。
また、椅子の角度は水平を避け、こまめに休憩を入れてもらいましょう。
苦しさや動悸が出やすい方は、体を左に向けると楽になることがあります。
また服薬については、自己判断で市販薬を服用せず、歯医者・産科で可否を確認してください。
必要最小限・最短期間が基本です。
妊娠中に歯が痛いときのセルフケアと生活の工夫

妊娠中は体調が日ごとに変わります。
無理をせず、その日のコンディションに合わせてできる範囲でケアしましょう。
ここでは自宅で実践しやすい方法をまとめます。
痛みをやわらげる生活のコツ5選
妊娠中に痛みがある場合は、以下の方法で過ごしましょう。
冷やす
痛む側の頬をタオル越しに保冷。歯に直接氷は当てない。
寝る姿勢
枕をやや高くして眠ると、うずきが落ち着くことがある。
刺激を避ける
極端に冷たい/熱い飲食や、甘い飲み物のダラダラ飲みを控える。
水分で中和
酸味の強い物をとった後は、水でひと口すすぐ。
噛む側の工夫
痛む側で硬い物を噛まない。
つわりで磨けない日のセルフケア
妊娠中はつわりの症状から、ブラッシングができない場合があります。
ブラッシングができないと虫歯リスクが高まるため、以下のセルフケアだけでも行うようにしましょう。
②30分置いてからブラッシング:胃酸で歯が弱っているため、すぐに強く磨かない
③小さめヘッド+やわらかめの歯ブラシで磨く:奥に入れてもえずきにくいブラシを選ぶ
④歯磨き粉は無理に使わない:香りがつらい日はなしでもOK
⑤フロスで詰まりだけ外す:全部できなくても、食べかすを優先的に除去
間食との付き合い方
妊娠中の方の中には、「食べづわり」で食べていないといられないという方もいらっしゃるでしょう。
常に食べている状態も虫歯になりやすいので、以下の4つを意識してください。
- 回数を決める:1日2〜3回までを目安に
- 選び方:ヨーグルト、チーズ、ナッツ、ゆで卵など歯に優しい選択を
- 避けたい例:砂糖が多い飲料や、キャンディのように口に長く残るもの
- 就寝前は控える:寝る直前の甘い物・飲み物は虫歯リスクが上がる
妊娠中の歯が痛いときは妊産婦歯科健診を活用しよう

妊婦向けの歯科健診は、痛みの原因を早めに見つけて、無理のない治療計画を立てるのに役立ちます。
お住いの自治体で受けられる制度もあるため、体調が落ち着いた頃に活用しましょう。
妊婦歯科健診を受けるおすすめな時期
妊娠中は、つわりが落ち着く妊娠中期(5〜7か月ごろ)が妊産娠健診を受けやすい時期です。
妊産婦歯科健診では、虫歯や歯茎の腫れ、親知らずのトラブル、噛み合わせや磨き残しのクセなどのお口の状態を確認します。
必要があれば、クリーニングや応急処置の提案も受けられます。
ただし、強い痛みがあるときは時期を待たずに相談してください。
受診前の準備と歯医者に伝えること
妊産婦検診の受診前には、以下のことを準備しておきましょう。
- 持ち物:母子手帳、保険証またはマイナ保険証、服用中の薬やサプリのメモ。
- 伝える内容:妊娠週数、体調(つわり・貧血・仰向けがつらい等)、アレルギー歴、産科の指示、これまでに痛みが出た場面(冷たい物でしみる、夜にうずく等)
- 費用:自治体によっては自己負担が少ない/無料の場合があります。住んでいる地域の案内を確認しましょう。・場所:指定の歯医者、または自治体の案内に沿って受診します。
- 回数:基本は1回でも、症状や指導内容に応じて追加受診の案内がある
妊産婦歯科健診は、「今の痛みを抑える」「出産まで無理なく過ごす」「産後に整える」という3つの視点で、お口の環境を整えるきっかけになります。
体調が良い日に、無理のない範囲で活用してみてください。
妊娠中に歯が痛いときの歯科治療Q&A

歯の痛みを正しく診断し、必要な処置を受けるために知っておきたいポイントをまとめました。
いずれも自己判断ではなく、妊娠週数や体調を歯医者に伝えたうえで相談してください。
Q1:歯科レントゲンは撮っても大丈夫?
歯医者によっては、必要に応じて防護エプロンで腹部を守りながら最小限の回数で撮影する可能性もあるかもしれません。
むやみに避けると診断が遅れ、かえって治療が長引くことがあります。
撮影の可否は、妊娠週数や症状の緊急度を踏まえて歯科医が判断します。
Q2:局所麻酔は赤ちゃんに影響しない?
虫歯治療やクリーニング時の痛みを抑えるために局所麻酔を少量使う場合がありますが、影響力はあまり大きくありません。
歯の痛みを我慢すると血圧上昇やストレスにつながるため、必要最小量での麻酔は選択肢になり得ます。
必要最小量での使用を歯科医と相談しましょう。
Q3:: 痛み止めは何を選べばいい?
妊娠中の方は、痛み止めよりも先にまずは非薬物的対処(冷却・清掃・睡眠環境の工夫)を優先します。
薬が必要なときは、アセトアミノフェン(カロナール)が選ばれるケースが多いです。
NSAIDs(ロキソプロフェンなど)は妊娠週数によって使い分けがあり、自己判断は避けるのが基本です。必ず医師・歯科医に相談してください。
Q4: 抗生物質は飲める?
薬にはいろいろな種類があり、妊娠中に使えるものと避けたほうがよいものがあります。
強い腫れや熱があるときは、抗生物質を使うケースもあります。
ただし歯医者によっては、取り扱いがない場合もあるでしょう。
また抗生物質を妊婦が服用すると、胎児に影響が出る恐れもあるので注意が必要です。
まとめ:妊娠中に歯が痛いときは自己判断せず受診しましょう

妊娠中はホルモンや体調の変化で歯や歯茎が痛みやすくなります。
強い腫れや発熱、眠れないほどの痛みがあるときは我慢せず歯医者に相談しましょう。
治療は安定期が進めやすいですが、初期や後期でも必要に応じて応急処置や短時間の治療が可能です。
日常では「吐いた後のうがい」「やわらかい歯ブラシ」「間食の見直し」など小さな工夫が役立ちます。
妊産婦歯科健診を利用して早めにチェックを受けておけば、妊娠中や出産後にお口のトラブルが起こりにくくなります。
患者様の症状や妊娠週数によって適した対応は変わるので、診断や治療は必ず歯医者や産科の医師にご相談ください。
ムクノキ歯科では、公式LINEやメールでのお問い合わせを24時間受け付けております。

